VOICE14| 2020年1月

探究心が息づく薬舗

堂々たるRCを纏った温かで誠実な店

─ 中区 平安堂

住  所:
横浜市中区相生町5-78
構  造:
RC造 地下1階/地上8階建て
敷地面積:
-
建築面積:
-
延床面積:
新社屋/1,935.65㎡ 薬局/167.22㎡
建築事務所:
新社屋/株式会社地主道夫設計事務所・日本土地建物株式会社   薬局/東建築計画事務所
設計監理:
-

Q. 建替え後の新店舗使い心地やお客様の声はいかがですか。

奥様「薬局は法律で構造等が定められています。今回の建て替えでは、今まで縛られて難しかった事も、デザインによってなんとか形にできました。お客様にも好評の声を頂け、そう感じていただけて嬉しいです。」 旦那様「以前とは雲泥の差ですね。一般的に薬局は閉鎖的なイメージが多いですが、ここは通りに面して、ドアや窓も全てガラス張りで開けています。店内を外から見ることができるので、本来あるべき小売りのスタイルになっていると思います。今後も、“こういう薬局あるんだ!”という興味と驚きを感じて、平安堂を知っていただければ嬉しいです。」

Q. 働いている従業員さんの反応はどうですか。

奥様「まだ戸惑いがありますね。というのも、ここは今までに無いスタイルの薬局になっています。薬剤師さんは調剤室の閉鎖的な空間で業務している所がほとんどですが、ここでは調剤室にいると奇妙に感じるのです。表に人がいないと“誰もいないのかな?”と感じさせてしまう。私たちは「薬局薬剤師は店頭にいるべき」という意図で、お店の構造を変えました。薬の準備や製造は、あくまでお客様に渡す前段階です。前段階に時間を使わず、店頭での相談やお話を目的としたいのです。病は付き合っていくものですが、話して商品を手に取った時は、健康や安心感を得られる状況にしたいと思っています。形が変われば人の行動は変わるので、調剤室でなく店頭に人が流れるスタイルを作りました。」

Q. 創立150年の節目での建て替えですが、どのような想いで取り組まれましたか?

奥様「平安堂は、初代や2代目は商売への意識に必死で、店舗・建物への熟考はその後からでしょう。平安堂の考えの礎を作った3代目は関東大震災で、4代目は戦争で全てを失いました。今まで、建替えには災害や戦争での喪失がありましたが、今回は何も失っていない状態から始めています。ですから、“これからの薬局”への強い想いがありました。将来、高齢者が安心できる街・地域づくりの中での薬局を目指しました。」 旦那様「実の所、10年以上前から計画はあり、たまたま150年に差し掛かるので、間に合わせようという所もありました。以前の建物は防火帯を担う建築上重要な建物だったので、惜しむ声もありましたが、今後、この建物になり良かったなと思っていただければ嬉しいですね。」

Q. 建築家と作ってみて、いかがでしたか?

奥様「私たちの業務は一日で完結する事がほとんどですが、建築は長期的に考える事が多く、違いに驚きました。また、気に入らない事があれば施主からハッキリ伝える事が大事だと感じました。曖昧なままだとそのままですが、方向性を明確にした方が、別の提案を探して下さり展開しますね。」 旦那様「度重なる会議では、それぞれの長が集まりました。やはり各々強い想いがあるので、なかなか纏まらないのですね。それでも、建築家の方が、最終的に皆が納得できる形で一つに纏めて下さり、力量を感じましたね。」

Q. キクシマに依頼してみていかがでしたか?

奥様「社屋は工事部の木村さん、薬局内装は上地さんに担当いただきました。年齢は全く違うのに、考え方や粘り方など雰囲気が似ていました。また、良いことも困った事も言いやすかったですね。図面上で終わらず、現場で分かる改善点を考えてもくれました。」 旦那様「お二人ともしっかりと話を理解して下さいました。また、下請けの業者さんも親身で、困った時直ぐに駆けつけてくれて心強かったです。」

Q. 最後に、店舗を新しくする時に大切だなと思う事をお聞かせください。

旦那様「外光や土地の形、広く見せる天井高など、多々ポイントはありますが、外の通りから中が見える事は特に重要ですね。実際の物を作っている場面が見えると、お客様の興味を惹いて楽しんでいただけると思います。実現していませんが、“漢方薬の煎じや自家製剤の製造しているところ”が見えたらもっとアピール出来るかなと考えています。」 奥様「光や色合いを選ぶことは大切ですね。私たちは薬局なので、ほっとやさしい感じになるよう暖かい照明にしました。一方で、店内の棚等は黒いアイアンで引き締め、コントラストを作り、お客様に注目いただけるようにしています。」

担当者から

平安堂さんは明治3年からこの地で続く、伝統ある老舗薬局です。創立150年の節目と建物の老朽化に合わせ、RC8階建ての堂々たるビルに生まれ変わりました。1階の調剤薬局は、一面ガラス張り、入口直ぐの受付カウンター、オープンな調剤室と、近距離でお客様に接する作りになっています。また、間接照明やアイアンラック、骨董も並び、インテリアショップのようなモダンさも備えています。“病につかれた同胞を救う業務”という、代々培われてきた想いのもと、人と丁寧に接する薬局を構造から生み出していきました。お二人の力強い言葉には、探究心や誠実さといった息づく精神と、現在と未来を見つめる意思があり、同時に人に対する奥深い温かさと優しさを感じました。そのお人柄があってこそ、頑健なビルに内包された温かな平安堂薬局を体現出来たのではないでしょうか。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

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